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季の雲の作家たち09 桐本泰一

09私たち夫婦に「漆」の素晴らしさを教えてくれた人。それが今回、紹介する漆作家、桐本泰一さんです。きっかけは、とある婦人雑誌で見かけた漆の椀でした。流れるような曲線が美しいすぎ椀。「すぐに実物を見たい」と、翌日には石川県の輪島に車を飛ばし、伺ったギャラリーになんと偶然、ご本人がいらして、私たちの訪問を喜んでくださいました。以来、桐本さんとは12年のお付き合いです。
 桐本さんは、漆のデザイン、プロデュースや同年代の職人さんたちとの創作以外に「漆をもっと身近に感じてもらいたい」と、講演やワークショップといった活動も積極的にされています。どの企画も毎回好評で、今まで思っていた漆のイメージが覆されたとおっしゃる方も少なくありません。
 皆さんは、金属のカトラリーと一緒に使っても問題ない漆器をご存知でしょうか。漆器の表面はとてもデリケート。ゆえに、金属のカトラリーとの組み合わせはタブーとされています。しかし、桐本さんが手がける漆器はそうではありません。木地に布着せ、下地を施した後、輪島小峰山の珪藻土(けいそうど)を焼いて細かく粉末にした輪島地の粉と漆を掛け合わせたものを表面に塗り込んでいるため、とても硬くて丈夫。「季の雲」がイタリアンレストランをしていた際には、そのお皿にパスタを盛ってお出ししていましたので、多くのお客様が「漆器なのに金属のフォークでも大丈夫だなんて」と、とても驚かれていました。
 老舗和菓子店では茶房で使用する漆器を。また新しくオープンする外資系ホテルでは、漆塗りのカウンターを…。漆の世界を広げるため、日々、チャレンジを続ける桐本さんから、これからも目が離せそうにありません。

桐本泰一 Taiichi Kirimoto

1962年 輪島市生まれ
85年に筑波大学芸術専門学群生産デザインコース卒業後、コクヨ(株)意匠設計部を経て、87年家業の桐本木工所入社。同年代の職人たちともネットワークを組み、今の暮らしの中で使うことが出来る漆の器・インテリア小物・家具・建築内素材など、幅広い創作活動を行う。

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智頭杉(ちずすぎ)のランチョンマットと愛らしいフォルムのスプーン。色は黒、ベンガラ、赤口朱の3色。

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桐本さんの作品制作に携わる、熟練の職人さん。特殊な道具を使いながら仕上げる手技には脱帽です。

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無駄のない美しいデザインだけでなく、口に入れた時の滑らかな舌触りにも驚きます。